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夫婦別姓訴訟最高裁判決について

2015年12月16日、夫婦同氏を定める民法750条の違憲性を問う国家賠償請求訴訟(夫婦別姓訴訟)において、最高裁は、民法750条の違憲性を認めませんでした。

本訴訟は、2011年2月14日、夫婦同氏制が憲法や女性差別撤廃条約に違反するとして、事実婚カップルを含む5名の原告が提訴したものです。2013年5月29日、東京地裁(第1審)では棄却判決、続く東京高裁(控訴審)でも、2014年3月28日、棄却判決が出されました。
そこで、2014年4月10日、原告らが上告(上告受理申立て)を行ったところ、上告について大法廷回付の連絡がありました。2015年11月4日、最高裁大法廷における弁論が行われ、今回の最高裁判決が下されました。

判決は、民法750条を合憲と判断した裁判官は10名、違憲と判断した裁判官は5名であり、15名中3名の女性裁判官の全員が「違憲」と判断しているという内容でした。

多数意見は、原告らが主張した「氏の変更を強制されない自由」(憲法13条)は、「憲法上の権利として保障される人格権の一内容であるとはいえない」とし、憲法14条1項違反という主張についても、「夫婦同氏制それ自体に男女間の形式的な不平等が存在するわけではない」として認めませんでした。また、憲法24条違反との主張に対しては、夫婦同氏制が、「個人の尊厳と両性の平等の要請に照らして合理性を欠き、国の立法裁量の範囲を超えるもの」と言えるかどうかを検討し、夫婦同氏制が合理性を欠く制度であるとは認められないと判断しました。

他方、岡部喜代子裁判官(櫻井龍子裁判官・鬼丸かおる裁判官同調。違憲判断につき、山浦善樹裁判官同調)は、女性の社会進出が著しく進んだ社会において、「同一性識別のための婚姻前の氏使用は、女性の社会進出の推進、仕事と家庭の両立策などによって婚姻前から継続する社会生活を送る女性が増加するとともにその合理性と必要性が増している」こと、「夫の氏を称することが妻の意思に基づくものであるとしても、その意思決定の過程に現実の不平等と力関係が作用して」おり、「個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚した制度とはいえない」こと、「夫婦が称する氏を選択しなければならないことは、婚姻成立に不合理な要件を課したものとして婚姻の自由を制約するものである」こと等から、夫婦同氏制は憲法24条に違反するとの意見を出しました。

また、木内道祥裁判官は、夫婦同氏の持つ利益は、「第三者に夫婦親子ではないかとの印象を与える、夫婦親子との実感に資する可能性がある」という利益にとどまるものであること、通称使用は「夫婦同氏の合理性の根拠となし得ない」こと、「未成熟子に対する養育の責任と義務という点において、夫婦であるか否か、同氏であるか否かは関わりがない」こと等から、夫婦同氏に例外を許さないことに合理性はなく、夫婦同氏制は憲法24条に違反するとの意見を出しました。

さらに、山浦善樹裁判官は、民法750条は憲法24条に違反するものであり、国会が現時点まで民法750条の改廃等の立法措置を怠っていたことは、国賠法上違法であるとの反対意見を出しました。

判決文は、以下の最高裁判所HPに掲載されています。
http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/546/085546_hanrei.pdf

今回、原告らの主張は認められませんでしたが、夫婦の氏のあり方に関する問題が社会的に周知されるようになりました。
寺田逸郎裁判長は、補足意見において、「民主主義的なプロセスに委ねることによって合理的な仕組みの在り方を幅広く検討して決めるようにすることこそ、事の性格にふさわしい解決である」と述べています。
本訴訟を契機として、今後氏に関する議論が活発化し、氏に対する意識が広まり、婚姻前の氏を継続使用する必要性が当然に容認されるような社会になることを願っています。

(夫婦別姓訴訟弁護団 川見未華)

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